「同意書さえもらっておけば法的には問題ない、という理解で合っていますか」
導入を決めたあと、法務部門からこう聞かれた採用担当の方は多いはずです。実際に調べてみると、同意で足りる部分と、同意があっても取得しない部分が分かれていました。この2つは根拠になる法令が違い、違反したときに起きることも違います。
この記事では、関係する法令を3つに整理したうえで、それぞれが何を縛っているのかを条文と行政資料から確認します。要配慮個人情報の扱い、公開情報やSNSがどこから「取得」になるのか、判例が示している枠組み、そして違反したときに何が起きるのかまで扱います。
この記事の要点
- 調査そのものを禁じる法律はなく、問題になるのは取得の仕方・取得する項目・結果の使い方の3局面
- 関係するのは個人情報保護法・職業安定法・厚生労働大臣の指針の3つで、縛っている対象がそれぞれ違う
- 個人情報保護法は要配慮個人情報を同意があれば取得できるとしているが、指針には同意があっても原則として収集しない類型がある
- 公開情報は閲覧しただけか、転記したかで法律上の位置づけが変わる
- 判例は、内定取消の事由を内定当時に知ることが期待できなかった事実に限っている
- 違反したときの経路は行政上の措置が2つと、民事上の請求が1つに分かれる
目次
バックグラウンドチェックが法律上問題になる3つの局面
バックグラウンドチェックという行為を名指しで禁じる法律は、現行法にはありません。企業が採用選考のために候補者の情報を確認すること自体は、手続きを踏めば実施できます。問題になるのは行為そのものではなく、次の3つの局面のどこかです。
取得の仕方
本人の同意を得ているか、利用目的を示しているか、偽りその他不正の手段を使っていないか。手続きの適正さが問われる局面です。同意書の有無が話題になるのは、主にここです。
取得する項目
その項目が採用選考の目的を達成するために必要な範囲に収まっているか、原則として収集しないとされている類型に触れていないか。手続きを踏んでいても、項目そのものが問題になる局面です。
結果の使い方
取得した情報を、示した利用目的の範囲で使っているか。社内の誰まで共有したか。選考の判断にどう反映したか。調査が終わったあとに問題になる局面です。
上位に出てくる解説記事の多くは「同意なしは違法」「無関係な情報の調査は違法」「調査結果による内定取消は違法」を並べて終わっています。この3つは、いま挙げた01・02・03にそれぞれ対応する話で、根拠になる法令も、違反したときに起きることも別物です。「違法」という一語でまとめてしまうと、自社で何を確認すればよいのかが見えなくなります。
関係する3つの法令と、それぞれが縛っている対象
採用調査に関係する法令は、大きく3つです。それぞれ守備範囲が違うので、どれが何を縛っているかを先に分けておくと、以降の話が整理しやすくなります。
| 個人情報保護法 | 個人情報の取得・利用・保管・第三者提供の手続き全般を定める。採用の場面に限らず、個人情報を扱うすべての事業者に適用される |
|---|---|
| 職業安定法 | 募集・採用の場面に固有のルール。求職者等の個人情報を、業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・保管・使用することを求める |
| 職業安定法に基づく指針 | 厚生労働大臣が公表する指針(平成11年労働省告示第141号)。収集してはならない個人情報の類型を具体的に挙げる |
このうち、採用調査を直接名指ししているのが職業安定法です。求職者等の個人情報の取扱いについて、条文は次のように定めています。
職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、特定募集情報等提供事業者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、それぞれ、その業務に関し、求職者、労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。
職業安定法第5条の5第1項(e-Gov法令検索/2026年8月時点・一部省略)読むうえで押さえておきたいのは、名宛人に「求人者」と「労働者の募集を行う者」が並んでいることです。人材紹介会社経由で採用する場合も、自社で直接募集する場合も、この条文の対象に入ります。調査を外部に委託していても、収集の主体は依頼した企業のままです。
条番号が変わっている点に注意する
この規定は、2022年10月の改正で第5条の4から第5条の5に繰り下がりました。第三者による解説記事や、行政機関が過去に作成した啓発資料には、旧番号の「第5条の4」が残っているものがあります。社内資料に条番号を引く場合は、e-Gov法令検索で現行の条文を確認してください。
外部に委託しても、依頼した側の義務は消えない
調査会社に依頼した場合でも、候補者の情報を取得し利用する主体は依頼した企業です。個人情報保護法は、委託した個人データの安全管理が図られるよう委託先を監督することも求めています。委託と第三者提供のどちらで整理するか、同意書にどう書くかという実務は依頼するときの5つのステップで扱っています。
同意で足りる範囲と、同意があっても取得しない範囲
この記事で最も分かりにくく、そして実務に効くのがこの部分です。個人情報保護法と職業安定法の指針は、同意の位置づけが違います。
まず個人情報保護法です。人種・信条・病歴・犯罪の経歴といった要配慮個人情報について、条文は次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
個人情報の保護に関する法律 第20条第2項(e-Gov法令検索/2026年8月時点)裏返せば、あらかじめ本人の同意を得ていれば取得できるという建て付けです。ここだけを読むと「同意書があれば足りる」という理解になります。
ところが職業安定法に基づく指針は、別の構造を取っています。
次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。/イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項/ロ 思想及び信条/ハ 労働組合への加入状況
職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号)(厚生労働省/2026年8月時点)ただし書の要件は「本人の同意」ではありません。特別な職業上の必要性が存在すること、その他業務の目的の達成に必要不可欠であることが先に立ち、そのうえで収集目的を示して本人から収集する場合に限られています。本人が同意したという事実だけでは、この要件は満たされません。
同意を得ることで取得できる範囲
- 学歴・職歴・資格など、募集する職務との関連が説明できる事項
- 前職への照会によって確認する在籍期間や退職の経緯
- 職務との関連が説明できる範囲での要配慮個人情報(個人情報保護法上は同意が要件)
- 公開されている情報のうち、選考の判断に用いる範囲
同意があっても、原則として収集しない範囲
- 本籍・出生地、人種、民族、門地といった社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 家族の職業や収入、本人の資産の状況
- 思想および信条、支持政党、人生観、購読している新聞や雑誌
- 労働組合への加入状況、労働運動や社会運動に関する情報
右側は、同意書に書き込んで署名をもらえば取得できる、という性質のものではありません。指針のただし書に該当するかどうかは、業務の目的の達成に必要不可欠かどうかで判断される建て付けになっています。採用選考の一般的な場面で、この要件を満たすと説明するのは容易ではないはずです。
同意書の文面にこの区別をどう反映するか、取得する項目をどこまで具体的に書くかは同意書に入れる7つの項目で整理しています。この記事では、なぜその書き分けが必要になるのかという根拠のほうを扱います。
要配慮個人情報が、採用調査のどこに出てくるか
要配慮個人情報は、採用調査の設計でいちばん扱いに迷う概念です。定義は個人情報保護法に置かれています。
要配慮個人情報
本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報。政令では、心身の機能の障害があること、健康診断等の結果、逮捕や刑事手続を受けた事実などが挙げられています。これらを推知させるにすぎない情報(宗教に関する書籍の購買履歴など)は含まれないと整理されています。
採用調査で顔を出しやすいのは、犯罪の経歴と病歴です。犯罪歴は反社会的勢力との関係を確認する工程で報道記事や裁判記録に当たり、病歴は空白期間の説明を求める場面で話題になります。どちらも、意図せず取得してしまう経路があります。
本人が公開している場合の例外と、そこに残るねじれ
要配慮個人情報の取得には例外が置かれています。本人、国の機関、地方公共団体、学術研究機関等、報道機関などによって公開されている場合は、あらかじめ本人の同意を得ずに取得できるとされています。候補者が自分で公表した情報や、報道された事実はここに当たり得ます。
個人情報保護法の例外に当たっても、職業安定法側の制約は別に残ります
公開されているために同意が不要となるのは、個人情報保護法上の取得の話です。その情報が指針の挙げる類型(社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想および信条、労働組合への加入状況)に当たる場合、収集そのものが原則として認められないという職業安定法側の規律は残ります。2つの法令は要件が別に走っているため、片方の例外がもう片方を解除する関係にはありません。
この点は、上位に出てくる解説記事ではほとんど扱われていません。「公開情報だから調べてよい」「同意があるから取得してよい」という2つの説明は、どちらも一方の法令だけを見た結論です。
反社会的勢力に関する情報の位置づけ
個人情報保護委員会のガイドラインは、要配慮個人情報を同意なく取得できる場面の1つとして、人の生命・身体・財産の保護のために必要がある場合を挙げ、その事例に、事業者間で不正対策等のために反社会的勢力に関する情報を共有する場合を示しています。反社チェックが実務として定着している背景には、こうした整理があります。
ただしこの事例が想定しているのは事業者間での情報共有であり、採用選考のための調査そのものを名指ししたものではありません。自社の運用がどう位置づけられるかは、実際の取得方法と目的に照らして、法務部門や専門家と確認してください。
公開情報やSNSは、どこから「取得」になるか
公開情報の確認は、候補者の手を煩わせずに実施できるため、多くのサービスが標準の工程に置いています。ここで実務の分かれ目になるのが、閲覧と取得の境界です。
個人情報保護委員会のガイドラインは、適正取得の項目に次の注記を置いています。
個人情報を含む情報がインターネット等により公にされている場合であって、単にこれを閲覧するにすぎず、転記等を行わない場合は、個人情報を取得しているとは解されない。
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会/2026年8月時点)つまり、画面で見ただけの段階と、報告書やメモに書き写した段階では、法律上の位置づけが変わります。調査会社が作成する報告書は、まさに転記した成果物です。
| 行為 | 法律上の位置づけ | 実務での扱い |
|---|---|---|
| 検索結果を画面で確認するだけで、記録に残さない | 単に閲覧するにすぎず転記等を行わない場合は、取得しているとは解されないとされている | 記録に残さないと決めたなら、そこで止める。担当者の記憶で判断を左右させない運用にする |
| 投稿内容を報告書やメモに書き写す | 取得に当たる。利用目的の範囲内であることが前提になる | 取得する項目として同意の説明に含めているかを確認する。含めていない項目は書き写さない |
| 思想信条や支持政党が読み取れる投稿を扱う | 指針が原則として収集を認めない類型に触れる | 目に入っても報告書には載せない設計にする。調査会社にも除外の指示を出しておく |
| 病歴や犯罪の経歴が読み取れる公開投稿を扱う | 要配慮個人情報。本人が公開している場合は同意不要の例外に当たり得る | 例外に当たっても職業安定法側の制約は残る。募集する職務との関連を説明できるかで判断する |
| 非公開アカウントに接触して内容を見る | 取得の手段が適正といえるかが問われる場面になる | 実施しない。調査会社の提案に含まれていないかを契約前に確認する |
なお、公開情報から確認できる範囲そのものにも限界があります。同姓同名の切り分けや、実名で運用していないアカウントの扱いといった技術的・実務的な限界はバックグラウンドチェックでは何を調べる?で扱っています。
判例が示している2つの枠組み
採用調査の周辺には、最高裁が枠組みを示した判決が2つあります。どちらも古い判決ですが、いまも実務の前提として参照されています。
採用の自由と、思想信条の調査
示された枠組み
裁判要旨は、企業者が採否の決定にあたり労働者の思想・信条を調査し、これに関連する事項の申告を求めることは違法とはいえない、としています。判決文は、いかなる者を雇い入れるかについて、法律その他による特別の制限がない限り原則として自由に決定できる、という前提を置いています。
採用実務への含意
この判決だけを読むと、思想信条の調査も許されるという結論になります。ただし判決には「法律その他による特別の制限がない限り」という留保があり、その後に職業安定法の規定と厚生労働大臣の指針が置かれました。古い判例を根拠にする議論が出てきたときは、この時系列を確認してください。
採用内定の取消が認められる範囲
示された枠組み
採用内定の通知によって解約権を留保した労働契約が成立したと認めたうえで、その解約権に基づく内定取消の事由を、採用内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、取り消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるものに限る、としています。
採用実務への含意
調査を内定通知の後に回すと、判明した事実について「内定当時に知ることが期待できなかった」と説明しにくくなります。調査を実施する前提で選考を設計しているなら、内定通知より前に完了させておく。これが、この枠組みから読み取れる実務上の順序です。
解説記事の中には「調査結果による内定取消は違法」と書いているものがありますが、判例が示しているのは違法か適法かの二択ではなく、取消事由がこの枠組みに当てはまるかどうかという判断構造です。当てはまるかどうかは個別の事情によります。
調査の完了時期をどこに置くかは、依頼する側が決められる条件です。納期と選考スケジュールの組み方は依頼の流れと必要な書類で扱っています。
違反したときに何が起きるか、3つの経路
「違法になる」という表現の中身は、実際には3つの経路に分かれています。どれも別の主体が動くもので、起きることも違います。
個人情報保護委員会による行政上の措置
個人情報保護法は、事業者が同法の一定の規定に違反した場合において個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは、委員会が違反行為の中止その他必要な措置をとるべき旨を勧告できると定めています。勧告に従わず、重大な権利利益の侵害が切迫していると認められるときは命令に進み、命令に違反した場合の罰則が置かれています。
厚生労働大臣による行政上の措置
職業安定法は、業務に関し同法またはこれに基づく命令の規定に違反した場合において、業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、改善命令を出すことができると定めています。条文が名宛人として挙げているのは職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者で、自社で直接募集する企業は「労働者の募集を行う者」に当たります。命令に違反した場合の罰則も置かれています。
候補者本人からの民事上の請求
行政の措置とは別に、プライバシーの侵害などを理由として、候補者から損害賠償を請求される経路があります。こちらは行政機関が動くかどうかとは関係なく、本人が訴えを起こすことで進みます。行政上の措置がなかったことは、民事上の責任がないことを意味しません。
3つは並行して起こり得るもので、どれかが働かなければ問題がないという関係にはありません
罰則の表記が変わっている点
これらの罰則について、条文の刑名は「拘禁刑」に置き換わっています。個人情報保護法の命令違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、職業安定法の改善命令違反は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定められています。「懲役」と表記した解説や資料がまだ多く残っているため、社内資料に転記する場合は現行条文を確認してください。
実務の感覚として重要なのは、勧告や命令に至る前の段階です。候補者からの問い合わせや、選考を辞退された理由の説明を求められる場面のほうが、はるかに高い頻度で起こります。そこで説明できる設計になっているかどうかが、結局のところリスクの大きさを決めます。
依頼前に法務と詰めておく確認項目
ここまでの内容を、社内で決めておく項目に落とします。法務部門との打ち合わせに持ち込むなら、次の7つを議題にすると話が進みます。
- 利用目的をどこで、どの文面で示すか|求人票、応募フォーム、同意書のどこに置くかを決める
- 調査項目に、原則として収集しない類型が混ざっていないか|指針の3類型に照らして1項目ずつ確認する
- 要配慮個人情報を取得する可能性がある項目はどれか|犯罪の経歴や病歴に触れ得る項目を洗い出す
- 調査会社に渡す情報を、委託と第三者提供のどちらで整理するか|整理の仕方で同意書の文面が変わる
- 報告書を閲覧できる社内の範囲と、保管期間|個人名ではなく役割で定め、期間経過後の扱いも決める
- 調査の完了時期を、内定通知のどちら側に置くか|内定前に完了させる前提でスケジュールを引く
- 同意が得られなかった場合の選考上の取り扱い|同意しないことによる不利益の有無をあらかじめ決める
この7つを詰めておくと、調査会社を選ぶときの質問も具体的になります。情報の管理体制や、取得しない項目を明示しているかどうかは、比較の軸として使えます。選定の軸と、その確認方法は調査会社の選び方で整理しています。
事業者側の公表内容にも差が出る部分です。採用フィルター(フィルターバンク株式会社)は、本人の同意取得を前提とすること、就業中の職場については在籍確認のみを行うこと、信用情報機関への照会は行わないことを公表しています。何をやるかと同じくらい、何をやらないかが書かれているかどうかが、法務との調整では手がかりになります。
当サイトの記載は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。実際の運用にあたっては、条文と行政機関の資料を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。
よくある質問
Q候補者の同意があれば、どこまで調べても法律上は問題ないのですか?
同意はあくまで手続きの一部です。個人情報保護法は要配慮個人情報について、あらかじめ本人の同意を得れば取得できるという建て付けを取っています。一方で職業安定法に基づく指針は、社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想および信条、労働組合への加入状況について、収集してはならないと定めたうえで、ただし書の要件を「特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合」としています。本人が同意したという事実だけでは、この要件は満たされません。
QSNSを見るだけでも、個人情報を取得したことになりますか?
個人情報保護委員会のガイドラインは、インターネット等により公にされている情報を単に閲覧するにすぎず転記等を行わない場合は、個人情報を取得しているとは解されないとしています。報告書やメモに書き写した時点で扱いが変わるため、実務では「見たかどうか」ではなく「記録に残したかどうか」で線を引くと整理しやすくなります。ただし目にした内容が選考の判断に影響する以上、担当者が個別に検索する運用より、調査として実施して報告書に残った情報だけを使う運用のほうが説明しやすくなります。
Q犯罪歴や病歴は調べてよいのですか?
どちらも個人情報保護法の要配慮個人情報に当たり、取得には原則として本人の同意が必要です。本人や報道機関などによって公開されている場合は同意が不要となる例外がありますが、その場合でも職業安定法側の規律は別に残ります。実務としては、募集する職務との関連を説明できる範囲に絞り、説明できない項目は調査対象から外す設計にするのが安全です。なお、捜査機関が保有する記録を民間企業が照会する仕組みはないため、犯罪歴を網羅的に確認することはそもそもできません。
Q調査を候補者に伝えずに実施することはできますか?
職業安定法は、業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集することを求めています。個人情報保護法も、本人から直接書面で個人情報を取得する場合にあらかじめ利用目的を明示することを求めています。伝えずに実施するという設計は、これらの規定と整合させることが難しくなります。調査会社の中には、採用フィルター(フィルターバンク株式会社)のように本人の同意取得を前提とすることを公表している会社もあり、同意なしで実施できると案内する事業者があった場合は、その根拠を確認してください。
Q法令に違反した場合、企業にはどのような措置がありますか?
経路は3つに分かれます。1つめは個人情報保護委員会による勧告と、勧告に従わない場合の命令です。2つめは厚生労働大臣による改善命令で、条文は労働者の募集を行う者などを名宛人として挙げています。いずれも命令に違反した場合の罰則が置かれており、刑名は拘禁刑に置き換わっています。3つめは候補者本人からの損害賠償請求で、こちらは行政機関が動くかどうかとは関係なく進みます。行政上の措置がなかったことは、民事上の責任がないことを意味しません。
まとめ
バックグラウンドチェックそのものを禁じる法律はありません。問題になるのは、取得の仕方・取得する項目・結果の使い方の3つの局面です。関係する法令は個人情報保護法・職業安定法・厚生労働大臣の指針の3つで、それぞれ縛っている対象が違います。
最も見落とされやすいのは、同意の位置づけが法令ごとに違うことです。個人情報保護法は要配慮個人情報について同意を要件としていますが、指針が挙げる3類型は、同意があっても原則として収集しないという別の構造を取っています。この二階建てを理解しておくと、調査項目を絞る作業に根拠が立ちます。
法務と詰めるときの順番
①調査項目を1つずつ書き出す → ②各項目が指針の3類型に触れていないかを確認する → ③要配慮個人情報に触れ得る項目を洗い出す → ④残った項目について募集する職務との関連を説明できるか確かめる → ⑤説明できない項目を外す → ⑥利用目的の文面と、調査の完了時期を決める
判例が示しているのは、内定取消の事由を「内定当時に知ることが期待できなかった事実」に限るという枠組みです。調査を実施する前提で選考を設計しているなら、内定通知より前に完了させる。この順序を守るだけで、後から生じる論点はかなり減ります。
最後に一点だけ。法令の確認は、調査を諦めるための作業ではありません。取得する範囲を先に決めておくと、候補者への説明が通りやすくなり、結果として同意も得やすくなります。範囲を広げるほど説明が難しくなるという関係を、設計の起点にしてください。
参照した公式情報
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索)
- 職業安定法(e-Gov法令検索)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)
- 求職者等の個人情報の取扱いについて(厚生労働省)
- 令和4年職業安定法の改正について(厚生労働省)
- 昭和43年(オ)第932号 労働契約関係存在確認請求事件(裁判所)
- 昭和52年(オ)第94号 雇用関係確認、貸金支払事件(裁判所)
- 採用フィルター(フィルターバンク株式会社)


導入の稟議を回したとき、法務部門から返ってきたのは「どこまで聞いていいのか」という一行でした。私はそれまで、調査会社が適法にやってくれるものだと思っていました。行政資料を一通り読んで分かったのは、聞いてよい範囲を決めるのは依頼した側だということです。判断の材料を自分で持っていないと、法務との会話が「大丈夫だと思います」で終わってしまいます。