経歴詐称はどのくらい起きている?発覚パターンと企業が被る実損

経歴詐称が表面化する段階を、選考中・入社手続き・配置後の3つに分け、遅れるほど作業の範囲が広がることを示した図
結論経歴詐称の発生率を示す公的な統計はありません。公表されている数値はいずれも調査を実施した企業の中で発覚した件数であり、母数の取り方が違います。実務で見るべきは発生率そのものではなく、申告と実態のずれがどの段階で表面化し、その段階ごとに社内にどの作業が発生するかです。

「経歴詐称って、実際どのくらいあるものなんでしょうか」

調査の導入を検討する場面で、決裁者から必ず出てくる質問です。頻度が分かれば費用をかける根拠になる、という発想は自然なものです。ただ、この質問に数字で答えようとすると、出所のはっきりしない割合を持ち出すことになります。私自身、社内向けの資料を作るときに一度そこで行き詰まりました。

この記事では、発生率という数字が出てこない理由を先に整理したうえで、申告と実態のずれがどの段階で表面化するのか、遅れて表面化したときに社内で何が起きるのか、そして詐称と取り違えやすいずれをどう扱うかまでを、採用実務の側から扱います。

採用調査ナビ 執筆者 佐久間 洋平 佐久間 洋平

私が扱った中で、いちばん手戻りが大きかったのは学歴でも資格でもありませんでした。前職での役職の申告と実態が違っていた件です。マネジメント経験ありという前提で配置を組み、評価基準もその前提で設計していました。実態が分かったのは配属から数か月後です。本人の処遇だけでなく、その下に置いた数名の体制と評価まで組み直すことになりました。金額に換算しにくい種類の負荷が、いちばん重かったという実感があります。

この記事の要点

  • 経歴詐称の発生率を示す公的な統計は存在しない。数えられるのは発覚した件数だけで、母数が揃わない
  • 「詐称」と呼ばれているものは誇張・省略・改変の3つに分かれ、表面化の仕方も対応も違う
  • ずれが表面化する段階は選考中・入社手続き・配置後の3つで、段階の境目は制度で決まっている
  • 雇用保険の被保険者証を提示する義務が生じるのは入社後であり、選考中の候補者に提示義務はない
  • 遅れて表面化するほど増えるのは賠償ではなく、配置・評価・引き継ぎのやり直しという社内の作業
  • 記載ミスや社内呼称の違いを詐称と扱わないために、本人に確認する手順を先に決めておく

経歴詐称はどのくらい起きているのか

結論から書くと、経歴詐称の発生率を示す公的な統計はありません。国の統計調査に経歴詐称という項目はなく、業界団体が継続的に集計している数値もありません。検索すると割合らしきものがいくつも出てきますが、出所をたどると調査サービスの提供事業者が自社の利用企業や人事担当者に対して行ったアンケートに行き着きます。

数値そのものが誤りだという話ではありません。問題は、母数が揃わないことです。同じ「割合」という言葉で示されていても、分母が調査を実施した企業なのか、実施した案件なのか、回答した人事担当者なのかで、意味がまったく変わります。この3つは並べて比較できるものではありません。

そもそも、この領域では分子と分母のどちらも正確には数えられない構造になっています。まず、その構造を確認しておきます。

数えられるもの

  • 調査を実施した案件のうち、申告と記録の不一致が報告された件数
  • 入社後に社内で問題として扱われ、記録に残った件数
  • 訴訟や労働審判に至り、判決や決定として公表された件数
  • 本人が申告を撤回した、または訂正を申し出た件数

数えられないもの

  • 調査を実施していない企業で起きていた、ずれの件数
  • 選考の途中で見送った候補者の申告に含まれていたずれ
  • 入社後も気づかれないまま経過している件数
  • 社内で処理され、記録にも社外にも出なかった件数

右側の4つは、性質として集計の対象になりません。とくに2つめが効いています。選考の途中で見送った候補者について、企業が申告の裏取りを続けることはありません。落とした理由が別にあれば、そこで確認は終わります。仮にその候補者の申告にずれがあったとしても、それは誰の記録にも残りません。

ここから導かれるのは、公表されている数値がどれも「調査を実施した企業の中で、発覚したもの」の割合だということです。調査を実施する企業は、実施する理由があって実施しています。母集団としての偏りが最初から入っているため、その割合を自社の見込み値として使うことはできません。

もう一点、言葉の使い分けについても先に整理しておきます。この記事では、実務で扱う対象を「申告と実態のずれ」と呼びます。

経歴詐称と、申告と実態のずれ

経歴詐称は、偽る意図があったことを含んだ言葉です。一方、報告書や書類の突き合わせで最初に分かるのは、申告と記録が一致しないという事実だけです。意図があったかどうかは、その時点では分かりません。実務では、ずれという事実の確認と、意図の評価を分けて進めます。順番を逆にすると、記載ミスを詐称として扱う事故が起きます。

決裁者に発生率を聞かれたときの答え方

頻度の数値を出す代わりに、ずれが表面化する段階と、その段階ごとに社内で発生する作業を示します。「何%の確率で起きるか」ではなく「遅い段階で表面化したとき、誰の何日分の作業が発生するか」のほうが、自社の実態に即した判断材料になります。段階を後ろに送らないことが、費用をかける理由そのものになります。

「詐称」と呼ばれているものは3つに分かれる

ひとくちに経歴詐称と言っても、実務で出会うものは3つの型に分かれます。この3つは、表面化の仕方も、確認の手順も、確認したあとの扱いも別物です。まとめて1つの言葉で呼んでいると、対応の設計ができません。

01

誇張|事実の範囲を広げて書く

実際に関与した案件の役割を、主導したという書き方に寄せる。数名のチームを率いた経験を、部門をまとめた経験として書く。事実そのものは存在するため、記録との突き合わせでは不一致として出てきません。表面化するのは、その前提で仕事を任せたあとです。

02

省略|不利になる事実を書かない

短期間で退職した在籍先を職務経歴書に載せない。空白期間の理由を書かない。書かれていないものは、書類の突き合わせでは見つかりません。在籍期間の連続性に説明のつかない切れ目があるかどうかで、確認の入口が見つかります。

03

改変|記録と異なる内容を書く

卒業していない学校を卒業と書く。保有していない資格を保有と書く。雇用形態や在籍期間を実際と違う形で書く。3つの型のうち、記録との照合で不一致として出てくるのはこの型だけです。確認手段が最も明確な一方、件数としては最も少なくなります。

照合という手続きで捉えられるのは、3つめの改変だけです。誇張と省略は、記録と突き合わせても不一致にはなりません。誇張は事実の解釈の幅の問題であり、省略は記載がないという状態だからです。

この点は、調査の限界そのものでもあります。何がどこまで確認できるのかという手段ごとの範囲はバックグラウンドチェックでは何を調べる?で扱っています。ここでは、3つの型のうち2つは照合の外側にあるという前提だけ押さえておきます。

誇張の型に近い領域を扱う手段としては、一緒に働いた人から仕事の進め方を聞くという方法があります。ただしそれは事実の照合とは性質の違う手続きで、集まる情報も、正解と突き合わせられるものではありません。2つの手法の性質の違いはリファレンスチェックとの違いと使い分けで整理しています。

申告と実態のずれは、どの段階で表面化するか

ここからが、この記事の中心です。発生率の代わりに見るべきなのは、ずれがどの段階で表面化するかという時間軸です。段階は3つあり、その境目は企業の運用ではなく制度によって決まっています。

  • 選考中 本人が提出したものと、企業が集めたものを突き合わせる|担当:人事 履歴書・職務経歴書と、卒業証明書や資格証などの提出書類、公開情報、前職への照会を突き合わせます。この段階で扱えるのは、本人の同意を得たうえで集めた情報に限られます。改変の型はここで不一致として出てきます。
  • 内定後から入社手続き 雇用に伴う届出のために書類を受け取る|担当:人事・労務 雇用保険や社会保険の手続きのために、本人から書類を受け取ります。目的は届出であって調査ではありませんが、結果として前職に関する記載が企業の手元に届きます。省略の型が見つかることがあるのは、多くの場合この段階です。
  • 配置後 任せた仕事の実態と、前提にしていた経歴を照らす|担当:配属先の管理者・人事 申告を前提に組んだ役割や権限に対して、実態が合わないという形で表れます。誇張の型が表面化するのはここです。書類には現れないため、上長や同僚が違和感として持ち込む経路になります。

3つの段階のうち、企業が能動的に確認できるのは1つめだけです。2つめは調査ではなく手続きであり、3つめは確認ではなく結果として表れるものです。「見抜く」という言い方が成立するのは、実質的に選考中の段階に限られます。

したがって、対策として実行できることは2つに絞られます。ひとつは、選考中の段階で照らせる範囲を広げること。もうひとつは、選考中では捉えられない型があるという前提で、入社後の受入れを設計することです。前者は確認手段の話であり、後者は配置と評価の話になります。この2つを混ぜて議論すると、選考をいくら厳しくしても防げないものまで選考の失敗として扱うことになります。選考を厳しくしても防げない領域が何に起因しているのかは、採用でミスマッチが起きる原因は?で構造として整理しています。

実務で優先度が高いのは、段階の順序を崩さないことです。確認の工程を内定通知より後ろに置いてしまうと、1つめの段階で捉えられたはずのものが2つめや3つめに送られます。手段を増やす前に、いま実施している確認がどの段階に置かれているかを確かめてください。

採用調査ナビ 執筆者 佐久間 洋平 佐久間 洋平

段階で分けて考えるようになったのは、社内で「なぜ選考で気づけなかったのか」という問いが繰り返されたからです。配置後に表面化する種類のずれは、選考のやり方を変えても捉えられません。逆に、選考中に確認できたはずのものを手続きの都合で後ろに送っていた案件もありました。まず、どの段階で捉えられる種類のものかを切り分ける。そこを共有してから、選考プロセスの議論に入るようにしています。

入社手続きで前職の情報とつながる仕組みと、その限界

2つめの段階について、もう少し具体的に見ておきます。ここは制度の作りが実務に直接効いてくる場面で、かつ誤解も生じやすいところです。

雇用保険では、労働者を雇い入れた事業主に届出の義務があります。雇用保険法第7条は、事業主は雇用する労働者について被保険者となったこと等を厚生労働大臣に届け出なければならないと定めています。この届出に何を書くかは、施行規則で決められています。

事業主は、法第七条の規定により、その雇用する労働者が当該事業主の行う適用事業に係る被保険者となつたことについて、当該事実のあつた日の属する月の翌月十日までに、雇用保険被保険者資格取得届(当該被保険者の氏名、個人番号、性別、生年月日、一週間の所定労働時間、被保険者番号(直近に交付された第十条第一項の雇用保険被保険者証に記載されている被保険者番号をいう。)(過去に被保険者となつたことがある者に限る。)その他の職業安定局長が定める事項を記載した届書をいう。)をその事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならない。

雇用保険法施行規則第6条第1項(e-Gov法令検索/2026年8月時点・一部省略)

注目すべきは、括弧の中の「過去に被保険者となつたことがある者に限る」という部分です。被保険者番号は個人ごとに一つで、勤務先が変わっても引き継がれます。つまり届出は、その個人の過去の記録と接続する形で行われます。

では、その番号を企業はどうやって知るのか。同じ条文の第7項に定めがあります。

被保険者証の交付を受けた者は、被保険者となつたときは、速やかに、その被保険者証をその者を雇用する事業主に提示しなければならない。

雇用保険法施行規則第6条第7項(e-Gov法令検索/2026年8月時点)

ここで重要なのは、義務が生じる時点です。条文は「被保険者となつたときは」と書いています。被保険者となるのは雇い入れられた後であって、選考を受けている段階ではありません。選考中の候補者に、被保険者証を提示する義務はありません。

選考中に提示を求める運用は、この条文を根拠にできません

被保険者証の提示義務は、雇用関係が生じたあとの手続きとして定められたものです。選考の段階で提示を求めること自体が直ちに禁じられるという話ではありませんが、提示しなかったことを不利に扱う根拠にはなりません。選考中に確認したい事項がある場合は、目的を示したうえで同意を得て取得するという、通常の手続きに乗せてください。取得の手続き全般はバックグラウンドチェックは法律的に問題ない?で扱っています。

この仕組みには限界もあります。届出が過去の記録と接続するのは、あくまで公共職業安定所の側です。企業が候補者の職歴を一覧として閲覧できる経路が用意されているわけではありません。被保険者証そのものに記載されるのは番号と氏名・生年月日といった範囲で、これまでの勤務先が並んでいるものではありません。

実務で前職の記載が目に入るのは、被保険者証と一体で交付された通知書が手元に残っていた場合などに限られます。手続きの過程で結果的に見えることがある、という程度のものです。ここを「必ず分かる」と受け取ると、確認したつもりで確認できていない状態が生まれます。行政機関が保有する個人の記録に、採用選考を理由として照会する経路がないという点は調査項目一覧と調査の限界のとおりです。

発覚が遅れると、企業側に何が増えるのか

この領域の解説では、企業が被る損害として損害賠償が挙げられることが多くあります。ただ、実際に発生する頻度が高いのは賠償ではありません。社内で処理される作業のやり直しです。しかもその量は、表面化した段階によって大きく変わります。

表面化した段階・社内に発生する作業・主に負う担当
表面化した段階 社内に発生する作業 主に負う担当
選考中 本人への確認と、選考の継続可否の判断。母集団が足りなければ募集の再開 人事
内定通知の前 採否判断のやり直しと、決裁の取り直し。他候補者の選考を止めていた場合はその再開 人事・採用決裁者
内定後から入社前 内定の扱いの検討と、受入れ準備の巻き戻し。着任予定日を前提にした計画の組み直し 人事・配属予定先
入社直後 研修と初期配置のやり直し。手続き書類の訂正。受入れ担当者の稼働の再調整 人事・労務・配属先
配置後 役割と権限の見直し、評価基準の組み直し、担当業務の引き継ぎ、周囲への説明 配属先の管理者・人事

下に行くほど、関わる人数が増えます。選考中であれば人事の中で完結しますが、配置後まで進むと、配属先の管理者、周囲のメンバー、場合によっては取引先への説明まで範囲が広がります。表面化が遅れることの実損は、金額よりも先に、この関与者の広がりとして表れます。

この表の作業が軽く見積もられやすいのには理由があります。どれも既存の人員が既存の業務時間の中で処理するため、追加の支出として計上されないからです。請求書が発生しない分だけ、検討の場では存在しないものとして扱われます。実際には、その時間に本来進めるはずだった別の採用や施策が止まっています。

もう一点、見落とされやすいものがあります。評価のやり直しです。前提にしていた経歴が違っていた場合、本人の評価だけでなく、その人を前提に組んだ体制の評価も基準を引き直すことになります。半期の途中でこれが起きると、周囲のメンバーの評価まで説明が必要になります。

採用調査ナビ 執筆者 佐久間 洋平 佐久間 洋平

社内でこの話をするとき、私は損害という言い方を使わないようにしています。損害と言うと、賠償を取れるかどうかの議論に流れてしまうためです。実際に起きているのは、人事と配属先が数週間から数か月かけて組んだものを、もう一度組み直す作業です。誰かが悪いという話に持っていかず、どの作業が何回発生したかで見るほうが、次に何を変えるかの議論につながりました。

調査費用と比べるときの並べ方

比べるのは、1名あたりの調査費用 × 調査の対象にする人数と、1件のやり直しで発生する作業量 × 関与する人数です。金額の側だけを見ると調査費用のほうが目に見えやすく、作業の側は見積書が出ないため軽く扱われます。対象人数の絞り方によって総額がどう変わるかはバックグラウンドチェックの費用相場で試算しています。この記事では金額そのものには踏み込みません。

詐称と取り違えやすい3つのケース

申告と記録が一致しないことと、偽る意図があったことは別です。ここを分けずに進めると、本人に落ち度のない事情で選考を打ち切ることになります。実際に不一致として出てきやすく、かつ詐称ではないケースを3つ挙げます。

CASE 1

在籍期間が1か月ずれている

履歴書の記載と、提出書類の日付が一致しないケース

確認すること

和暦と西暦の変換、退職日と最終出社日の取り違え、月末退職と翌月1日入社の扱いのいずれかであることが多くあります。前後の在籍先との接続を見ると、単純な書き間違いかどうかが判断できます。書類の発行時点も確認してください。

取れる対応

本人に、どちらの日付を書いたのかを事実として尋ねます。理由を問い詰める形にせず、記載の根拠を確認する形にしてください。訂正して整合するのであれば、それ以上の扱いにしません。

CASE 2

職位の名称が前職の記録と違う

申告はマネージャー、記録上の職位は別の名称というケース

確認すること

職位の呼称は企業ごとに異なり、社内での通称と人事制度上の等級名が別になっていることがあります。役職手当の有無、部下の人数、決裁権限の範囲といった実態のほうを聞くと、呼称の差なのか役割の差なのかが分かれます。

取れる対応

呼称ではなく、任されていた範囲を言葉にしてもらいます。自社で任せようとしている役割と照らして、前提が成立するかどうかを判断してください。呼称の一致だけを条件にすると、実態のある経験まで落とすことになります。

CASE 3

在籍先の社名が記録と一致しない

照会先が見つからない、または別の法人名が出てくるケース

確認すること

商号変更、合併、事業譲渡、持株会社化のいずれかで法人名が変わっていることがあります。出向していた場合は、雇用契約の相手方と勤務していた場所が別になります。登記情報でその法人の変遷をたどると、経緯が確認できます。

取れる対応

本人に、雇用契約を結んでいた法人と勤務していた場所を分けて説明してもらいます。派遣や業務委託の期間が混在している場合は、契約の形態ごとに期間を書き出してもらうと整理がつきます。

3つに共通するのは、不一致の原因が本人の外側にあるか、制度や呼称の違いに由来しているという点です。報告書に不一致として記載されていても、それは意図の証明ではありません。この扱いは、報告書の「確認できず」を詐称の証拠として読まないという考え方と同じです。

ずれが見つかったときに、最初に決めること

不一致が出てきた時点で、社内では複数の人が動き始めます。順序を決めていないと、確認が終わる前に情報が広がり、後戻りできなくなります。最初にやることは、処分の検討ではなく事実の確定です。

1

不一致の内容と出どころを書き出す

どの申告と、どの記録が、どう食い違っているかを1行で書き出します。出どころが提出書類なのか、照会の回答なのか、公開情報なのかによって、確からしさが違います。この整理を飛ばして本人に聞くと、指摘の根拠を示せません。

2

情報を共有する範囲を、先に狭く決める

確認が終わるまでは、人事の中の限られた担当者にとどめます。配属先の管理者に伝えるのは、事実が確定してからです。疑いの段階で共有すると、結果として何もなかった場合に、本人の立場を戻せなくなります。

3

本人に、記載の根拠を事実として尋ねる

意図を問う質問から入らず、その記載をどの資料に基づいて書いたのかを聞きます。前の見出しで挙げた3つのケースであれば、この時点で説明がつきます。聞く担当者は、面接の評価者ではなく人事に固定してください。

4

判断の材料が揃った段階で、扱いを決める

採用の可否や入社後の扱いをどう判断するかは、事実が確定してからの論点です。内定の取消しや解雇の可否には判例が示した枠組みがあり、就業規則の定めとも関わります。この段階に入る前に、法務や顧問弁護士に相談する経路を確保しておいてください。

4つめについて補足します。内定を出したあとに知った事実をどこまで理由にできるかについては、最高裁が枠組みを示しています。この枠組みと関係する法令の全体像は関連法と判例の枠組みで扱っているため、ここでは繰り返しません。実務として押さえておきたいのは、調査の完了を内定通知より前に置くという順序のほうです。

そして、こうした場面が発生したときに慌てないためには、判断の基準を実施前に決めておく必要があります。以下は、調査の運用を始める段階で確定させておく項目です。

  • 不一致が出たときに最初に受け取る担当|個人名ではなく役割で定める
  • 本人に確認するまでの情報共有の範囲|配属先に伝える時点を明文化しておく
  • 記載ミスとして扱う範囲|日付の相違など、訂正で足りるものの線を先に引く
  • 本人への確認を担当する役割|面接の評価者とは分ける
  • 調査の結果を受け取ってから内定を出すまでの日数|順序が逆にならない工程にする
  • 法務や顧問弁護士に相談する条件|どの段階で相談に上げるかを決めておく
  • 確認の経緯を記録する場所と保管期間|担当者の手元に残さない形にする

調査を依頼する側が社内で決めておくことの全体像は依頼の流れと同意の取り方にまとめています。上の項目は、そのうち不一致が出た場合の運用に絞ったものです。

よくある質問

Q経歴詐称はどのくらいの割合で起きていますか?

発生率を示す公的な統計はありません。公表されている数値は、調査サービスの提供事業者が自社の利用企業や人事担当者に対して実施したアンケートに基づくものが中心で、分母が調査を実施した企業なのか、案件なのか、回答者なのかによって意味が変わります。加えて、選考の途中で見送った候補者の申告や、入社後も気づかれていないものは集計の対象になりません。数値を自社の見込みとして使うより、ずれが表面化する段階と、その段階ごとに社内で発生する作業を見るほうが判断材料になります。

Q経歴詐称は面接で見抜けますか?

型によって変わります。記録と異なる内容を書く改変の型は、提出書類や照会との突き合わせで不一致として出てきます。一方、事実の範囲を広げて書く誇張の型と、不利な事実を書かない省略の型は、記録と照らしても不一致になりません。面接で深く聞くことで違和感を持つことはできますが、それは確認ではなく印象です。選考中に確認できるのは、書類や照会で照らせる範囲に限られると考えてください。

Q選考中に雇用保険被保険者証の提出を求めてもよいですか?

被保険者証を事業主に提示する義務は、雇用保険法施行規則で「被保険者となつたときは」と定められています。被保険者となるのは雇い入れられた後であり、選考を受けている段階の候補者に提示義務はありません。求めること自体が直ちに禁じられるわけではありませんが、提示しなかったことを選考上不利に扱う根拠にはできません。選考中に確認したい事項がある場合は、目的を示して同意を得たうえで取得するという通常の手続きに乗せてください。

Q申告と記録が一致しなければ、詐称と判断してよいですか?

一致しないという事実と、偽る意図があったという評価は別のものです。実務では、和暦と西暦の変換ミス、退職日と最終出社日の取り違え、職位の社内呼称と人事制度上の名称の違い、商号変更や合併による社名の相違、出向や業務委託の期間の扱いといった理由で不一致が生じます。まず記載の根拠を本人に事実として尋ね、説明がつくかどうかを確認してください。順序を逆にすると、本人に落ち度のない事情で選考を打ち切ることになります。

Q入社後に判明した場合、どう進めればよいですか?

最初にやるのは処分の検討ではなく事実の確定です。どの申告とどの記録がどう食い違うかを書き出し、情報を共有する範囲を人事の中に絞ったうえで、本人に記載の根拠を尋ねます。配属先に伝えるのは事実が確定してからにしてください。そのうえで、入社後の扱いをどう判断するかについては、最高裁が示した枠組みと就業規則の定めが関わります。この段階に入る前に、法務や顧問弁護士へ相談する経路を確保しておくことをおすすめします。

まとめ

経歴詐称がどのくらい起きているのかという問いに、数字で答えることはできません。公的な統計がないうえに、数えられるのは調査を実施した企業の中で発覚したものだけだからです。選考の途中で見送った候補者の申告や、入社後も気づかれないままのものは、構造として集計の外側にあります。

代わりに使える軸が、表面化する段階です。選考中に捉えられるのは記録と照らして不一致になる型に限られ、省略の型は入社手続きの過程で、誇張の型は配置後に、それぞれ別の経路で表れます。段階の境目は制度によって決まっており、雇用保険の被保険者証を提示する義務が生じるのも入社後です。

そして、表面化が遅れるほど増えるのは賠償ではなく、配置・評価・引き継ぎのやり直しという社内の作業です。関わる人数が広がり、見積書の出ない形で負荷が積み上がります。調査に費用をかける理由は、頻度の高さではなく、表面化の段階を前に持ってくることにあります。

最後に一点だけ。申告と記録が一致しないことは、それだけでは意図を証明しません。記載ミスや呼称の違いを詐称として扱わないために、確認の順序と、情報を共有する範囲を先に決めておいてください。手順を決めておくことが、候補者にとっても企業にとっても、最も無理のない運用になります。

参照した公式情報

情報の取得時点:2026年8月。記載の内容は各機関・各社の公開情報に基づく参考情報です。法令は改正される場合があり、個別の事案への当てはめは専門家にご確認ください。